Verbose

本日のお題:E.R. (救急治療室)

choushinki

人間どうしたって病気にもなれば怪我もする。ハワイへ観光でみえたのに、不運にもお医者さんにかかるはめになって不安に思われた方もいるだろう。 かかりつけでも、病院というところは喜んで出かけていく場所ではないだろうに。で、私も突然そういうハメになって自分では落ち着いていたつもりでも、結構焦っていたことが後で分かったりした(^^;)
という訳で、今日のお題は救急室。テレビ番組でもおなじみ、ER(Emergency Room)の体験記である。

以前のことだが、食器を洗っている最中に手を切ってしまった。 お気に入りの中華模様の皿にヒビが入っていて、力を込めてこすったらカパッと二つに割れた。 で、スポンジを持っていた右手がこすっていた勢いで、そのまま皿の割れた断面に!

切り傷は私が思っていたより深かったらしく、一向出血が止まってくれない。仕方なく自分で運転して救急病院へ行った。(救急車を呼ぶほどではないと判断して)
夜の8時過ぎに飛び込んだ先は大手の××病院の救急室。ERの灯のともった玄関には赤ん坊を連れたお母さんや中年男性数人がいたが、彼らが患者かその家族かは良く分からなかった。 ただ、夜のERに結構人がいてその人たちに慌ただしい様子が無く、"緊急"という感じからはほど遠かった事にホッとした。

受付のハワイアンのおばさんはにこにこしながら「どうしたの?」と聞いてきて、私の傷を見た途端ウエッと顔を顰めてしまった。 (本人は元々バンドエイドで止めれば大丈夫のはず、と呑気に構えていたが、まあ、運転途中でも多少出血があったので見た目ご大層だったのかも)

おばさんのウエッが効いたのか、中には直ぐ入れてくれた。けれど実はそれから保険のチェックに始る手続きがかなりあり、 無事なほうの左手に新生児がつけるような名札のマークをつけられ、簡単な消毒と問診を看護婦さんがしてくれるまで、わりと時間がかかった。それから更に医師が来るまで三十分あまりベッドの上で待つこととなった。

こういうシーンは、テレビの ERでもあったなあ。早くみてくれないか、と思いながらずっと待っていて、主人公の医者に噛みついたりする奴。けど、あの時のERは戦争のような騒ぎだったけど、 今夜のここは静かだし、ベッドの他の患者さんものんびりしてるように見えるんだけど…。まあ、私の怪我なんて救急のうちには入らないのかも〜? などつらつら考えながら、せっかく本物のERに来たことではあり、あれこれ観察させてもらった。

bed
(日本の病院)

私の案内されたベッドは ERの軽傷者用ではなかったかと思う。部屋の端には奥へ通じる扉があって、そこから看護婦さんらが次々出入りしている。
真ん中をかなり広いスペースを空けて通路にしており、通路を挟んで向き合う形にあるベッドは各々カーテンで仕切られている。私の向かい側には5床あり、どのベッドの周囲にもワゴンにのった医療キットと様々な機器が備えられていて、天井からのびたアームの先には大きいライトが付いていたりした。

真向かいのベッドには白人のえらく太ったおばさんとその付添らしい人がいて、看護婦さんにしきりと話しかけている。
どうも足の怪我だったようで、松葉杖のつき方を色々教わっているようだった。
でも、おばさんは結局車イスに乗り、付添のもう一人のおばさんに押してもらって退場。

左の奥の方には、ハワイアンかポリネシア系らしい体格のめちゃいい兄ちゃんが、やっぱり足の怪我らしい。 文字通り丸太のような太い片足の膝をサポータに巻いてベッドの上にでんと乗せている。事務の人とのやり取りでは、ハワイ大学の学生で保険に入っていなかったらしい。それでトラブているのか、誰かしら彼のところに来ては一言二言言葉を交わしてまたいなくなる。

国民皆保険の日本と違ってアメリカは一人ひとりが自分で保険を買う。フル・タイムの仕事についている場合は、勤務先の団体加入保険などがあって保険料も割引があったりするけれど、基本的に個人の選択だ。 交通事故にあったときなどでも、真っ先に聞かれるのが保険加入の有無だそうで、もし未加入と分かると救急車もその場に怪我人を置き去りにしていってしまう(!)等という話がまことしやかに伝えられているほどだ。

看護婦さんはスカート姿は一人もおらず、制服はいずれもミント・グリーンや明るい目の紫、青といったカラフルで、つなぎのよう。足もとは人によっては何やら防水カバーのようなもので靴を丸ごと覆っている人もいた。髪形は引っ詰めの人もいれば、ポニーテール、長くてもそのままだったり。 外見だけでも、日本の病院でみかける看護婦さんの姿とは随分異なる。

余談だが、看護婦さんに限らず制服着用の勤め人は出勤してくるのに自宅で制服に着替えてそのまま出てくる場合が多々ある。だから昼休みとか帰宅途中の買い物とかも制服のまま。 スーパーで買い物カゴを下げたお巡りさんに出会ったり、バス停で制服の看護婦さんに出会ったりするのは当たり前の景色だ。(勿論、テレビ番組のERのようにロッカー室のあるところもある。けれど、日本のように制服の着用が公私のケジメと見なす感覚は乏しいと思う。)

どの看護婦さんも速い動きで中央の空きスペースをさっさと通り過ぎていく。けれど、私やほかの患者と目が合うと、極上の笑顔でニッコリして何かしら短い言葉をかけてくれるのが印象的だった。中にはワザワザ近寄ってきて、気分はどうか?と尋ねてくれたり、 布団で足もとを覆うようになおしくれたりした人もいた。

かなり経ってから登場したのは中国系の中年の男性医師で、怪我をしたときの状況を根掘り葉掘り聞かれた。つまり、傷の中にお皿の欠片が入っている可能性を心配してのことらしい。 それと、看護婦さんの問診でも尋ねられたが、怪我が誰かに負わされたものかどうか(犯罪性の有無)も確認された。

houtai


私にしてみれば、そんなに破片の混入が気になるならX線でさっさと確認してくれればいい、と思うのだが。どうも、私の方からそういうリクエストをしなければ口頭の確認だけで済ませてしまうようだ。
この辺り、実際にもっと深刻な状況とかに陥る可能性もあるので、もしこれを読んでいる方が似たような状況に合われたら、御自分の方からアクションを起こす事をお奨めする。

さて、私の臨時主治医はかなりむっつり型。必要な手当てだけをさっさとする、という感じ。私が「破傷風」の単語を聞き逃したので余計口をきいても無駄と思ったのか? お陰で、ここの病院の別のサービス、つまり日本語通訳のサービスを体験することができた。別の診療所にいる日本人医師を呼びだしてくれて、破傷風の予防注射を一番最近受けた日時を確認された。

それから、先生は黙々と私の傷を縫うことに専念。こう言うのもこちらでは珍しいと思う。大抵、患者と二人きりになった医師は何かと気を紛らわすようなことを話しかけてくるのがアメリカ風。 別の機会に訪れた内科などでも、どんな勉強をしているのかとか、ハワイでの生活はどうか、等々当たり障りの無い話題だがパーソナル・コミュニケーションを取ろうとすることが多かった。

怪我の縫合で私が興味を引かれたのは、看護婦さんが用意して持ってきたピンセットや針、糸、ガーゼ、はさみ等々がいずれも透明な袋に密封されており、使う時に全てその場で袋を破って取りだしたこと。 また、プラスチック・コーティングされた紙が色々なカバーの替わりに使われていて、布のシーツなど全くなかったこと。傷を縫うために消毒すしたりするときも、腕を覆っていたのは似たようなタイプの紙だった。 つまりこれらは全て、私の為だけに使われて使用後は廃棄処分になる。

後日、抜糸のためにこの病院の別の診療所を訪れたときも同様で、その時の先生はピンセットなどを全部私にくれた。曰く「どうせ使い捨てでもったいないから君にあげる」と。 確かに金属製のピンセットや鋏を一回きりで捨ててしまうのは私も躊躇われたので、ありがたく頂戴して帰った。

noubon


話は救急室へ戻って、縫合の後先生はサッサと居なくなってしまい、看護婦さんに破傷風の予防注射を受けた後は抜糸に行く診療所の住所を教えられ、薬は痛み止めだけ貰った。日本だったら化膿止めとか色々薬が出そうなものだが、このあっさりさ加減にもちょっとビックリ。 しかも、出してくれた痛み止めは「タイレノール」という何処でで入手できる市販の鎮痛剤。ER内では救急患者然として心遣いを受けて手当てをされていた、と思っていたのが、その後の拍子抜けするくらいあっさりした対応に何やら妙に気が抜けたのを覚えている。

日本ではやらないだろうなというオマケを一つ。
抜糸も済み、2週間ほどたったころにERの本病院から電話がかかってきた。何だろうと緊張して応答していたら、なんと私に担当医やERのサービスについて評価をするように求めてきた。オペレーターの質問に一つ一つ答えていくもので、 縫合を担当した医師の評価を中心とするものだった。例えば、当日受けた治療内容について事前に納得がいくまで説明があったか否か、受付から治療を受けるまでかかった時間、ERにいた看護婦の態度、等々。待たされた時間など具体的に聞かれたが、時計が手元に無かったので分からないと答えると、 では待っている時間を不快と感じたかそうでなかったか、という所まで細かく聞いてきたのにはとても驚かされた。

海外旅行や海外での生活について、色々ノウハウの本も最近では多く出ているけれど、保険制度、医師あるいは看護婦との関係の築き方、治療の相談の仕方など、その場にならないと必要とされないケースについては情報も限られている。
これからは、是非こういう分野での多様な情報、ノウハウをどんどん出して貰えたらと思う。
(2001.12.13)





 

Top | About | Verbose | Diary | Recipe | Photo | Link | BBS | Mail

Copyright (C) 2001-2002 A.S. Kijima. All rights reserved.
Photo: momo
Photos:

[PR]動画